
少子高齢化とライフスタイルの変化を背景に、「墓じまい」(既存の墓石を撤去し、遺骨を移動・整理すること) を選ぶ家庭が急増しています。厚生労働省「衛生行政報告例」によると、全国の改葬件数は 2000 年比で約 2.4 倍に達し、2023 年度は 15 万件超と過去最多を更新しました[^1]。一方、費用は 35 万〜200 万円と振れ幅が大きく、高額請求や離檀料トラブルも後を絶ちません。
本稿では 墓じまいと改葬の違い、増加の 5 大要因、必要手続き、費用内訳、最新トレンド、よくあるトラブルと回避策 まで 3,000 文字超で徹底解説します。
墓じまいの意味と改葬との違い
墓じまいの定義
墓じまいとは、既存の墓石を撤去し、墓地を原状回復して管理者へ返還する行為 を指します。遺骨は永代供養墓や納骨堂など別施設へ移すか、散骨・樹木葬などで供養します。
改葬との違いを図解
行為 | 墓石撤去 | 墓地返還 | 遺骨移動 | 行政許可 |
---|---|---|---|---|
改葬 | × | × | ○ | 必要(改葬許可) |
墓じまい | ○ | ○ | ○ | 必要(改葬許可) |
改葬は 「遺骨を移す手続き」、墓じまいは 「改葬+墓地の更地化」 と覚えると整理しやすいでしょう。
墓じまいが増えている 5 つの理由
継承者不足と少子高齢化
単身高齢者や子どもがいない世帯が増え、墓を守る後継者が不在になるケースが急増しています。
遠方での管理負担
都市部への転居で菩提寺が遠方になり、移動コストと管理労力の増大から墓じまいを選択する事例が目立ちます.
経済的コストの見直し
年間の護寺会費や墓石メンテナンス費用が家計を圧迫。永代供養へ移すことで固定費を削減したいニーズが高まっています。
ライフスタイル・供養観の多様化
樹木葬や散骨、オンライン法要など「自然回帰」「デジタル供養」を志向する層が増加。
寺院側の維持困難と社会構造
檀家減少で寺院が維持費を賄えず、墓じまいを寺側から提案するケースも報告されています。
墓じまいを決める前の準備チェックリスト
親族・菩提寺との合意形成
親族代表者を決め、先祖供養の方針を共有。菩提寺には早期に連絡し、閉眼供養の日程と離檀料の有無を確認します。
新しい供養先の選択肢(永代供養・樹木葬など)
- 永代供養墓:合祀型 5 万〜30 万円、個別型 80 万〜150 万円
- 樹木葬:20 万〜80 万円
- 散骨:5 万円前後
自治体の補助金・助成制度を調べる
泉大津市や市川市など、一部自治体では墓石撤去費の補助や還付金制度があります。市区町村の生活衛生課で要確認。
墓じまいの流れと必要書類
行政手続き 5 ステップ(改葬許可申請など)
- 改葬先を決定し 受入証明書 を取得
- 現在の墓地管理者から 埋葬証明書 を受領
- 市区町村へ 改葬許可申請書 を提出
- 改葬許可証 を受領
- 石材店が閉眼供養後に墓石を撤去し、遺骨を改葬先へ移送
必要書類の取得方法と注意点
埋葬証明書を寺院が発行拒否すると手続きが停止します。離檀料交渉と同時に依頼し、書面で期日を定めると安全です。
石材店選びと見積もり比較
墓石撤去費は 1㎡ あたり 10 万円が目安。3 社以上の相見積もりで最大 30%削減できた例もあります。
費用相場と内訳を徹底解説
解体撤去費・閉眼供養・改葬費用
項目 | 相場 | 備考 |
---|---|---|
墓石撤去 | 10 万〜50 万円 | 面積・立地で変動 |
閉眼供養(お布施) | 3 万〜5 万円 | 住職への謝礼 |
改葬・永代供養 | 10 万〜150 万円 | 供養形態で変動 |
35 万〜200 万円の幅が生まれる理由
墓地面積・墓石重量・離檀料・改葬先の種類で費用が大きく変動します。
費用を抑える 3 つの方法
- 石材店の相見積もり
- 合祀型永代供養を選択
- 自治体補助金を活用
墓じまいのトラブル事例と回避策
高額請求・作業遅延のケース
国民生活センターには「見積もりと請求額が異なる」「作業が半年遅延」などの相談が寄せられています。契約前に作業内容と期日を明文化しましょう。
埋葬証明書が発行されないケース
発行拒否には内容証明郵便で催告し、弁護士会 ADR に調停を申立てると解決が早いとされています。
遺骨返還トラブルを防ぐポイント
閉眼供養当日に遺骨を家族立ち会いで受領し、引渡書を交わすことで未返還リスクを低減できます。
失敗事例から学ぶ注意点
手続き遅延で法要に間に合わなかった例
石材店の繁忙期と役所の休業が重なり、改葬許可証の取得が遅れた事例があります。法要予定日の 3 か月前 を目安に申請しましょう。
賃貸納骨堂の経営破綻による再改葬例
運営母体の財務状況を調べず契約し、破綻により遺骨を再移動したケースが報告されています。運営実績や財務安定性を確認しましょう。
墓石リサイクルと環境への配慮
リサイクル石材の活用事例
撤去した石材を敷石やモニュメントに再利用する取り組みが増えています。
産業廃棄物として処理する場合のルール
墓石は「がれき類」の産業廃棄物に該当し、マニフェスト発行と適正処分が義務づけられます。
最新トレンド:オンライン手続きとデジタル供養
自治体のオンライン改葬申請
奈良市など複数自治体がオンライン改葬申請を導入。郵送不要で許可証を取得できます。
バーチャル墓参り・リモート法要サービス
全優石加盟店では VR 墓参りやリモート法要を提供しており、コロナ禍以降利用者が急増しています。
よくある質問(FAQ)
- 墓じまい後の土地は誰のもの?
→ 更地返還後は墓地管理者に帰属します。 - 離檀料は必ず払うの?
→ 契約書に明記がなければ任意ですが、相場は 5〜20 万円です。 - 改葬許可証はどのくらいで発行される?
→ 早い自治体で即日、平均 1〜2 週間です。
まとめ──準備と情報収集が「納得の墓じまい」を実現する鍵
墓じまいは 改葬許可申請 → 墓石撤去 → 遺骨移動 → 墓地返還 という多段階プロセスで、費用・トラブルともに変動幅が大きいのが現実です。親族合意・菩提寺との調整・費用相場の把握・行政手続きの早期着手 が成功のポイント。オンライン申請や VR 供養など最新サービスも活用し、先祖への敬意と家族の負担軽減を両立した「納得の墓じまい」を実現しましょう。
[^1]: 厚生労働省「衛生行政報告例」(2023 年度)